- ラグナデアにある軍の施設、集会所でのエピソードが描かれる
- 集会所に現れた二人の男と金髪の女が会話する場面が描かれる
- 紫髪の男が姿を現し、会話に加わる
- 女性が男たちに働くことを依頼する
【web小説】流星の尾 -女王と黒騎士団-
お知らせ > その他 [その他] 【web小説】流星の尾 -女王と黒騎士団- 24.11.08 24.11.08 ラグナデアに存在する、軍の為の施設。そのうちの一つに、集会所がある。 集会所は、騎士の叙勲を受けた者達が、任務を受ける為に使われる場所である。普段は人の出入りもそれなりで、騎士達による会話が止む事は無い。しかし今日は、昼下がりにも関わらず人の出入りは殆ど無い。 集会所に入って階段を上った先の、正面に聳える扉に相対する形で、二人の男が佇んでいる。扉は人を何人分も縦に並べられる程の高さがあり、片方の扉ですら一人の力で動かす事が難しいと容易に想像できる。扉の前には、腰まで届く金の髪に王冠を被った女が一人。階下の両脇には、衛兵が一人ずつ直立不動で立っている。 女の前に立っている男の一人は均整の取れた体形で肩まで伸びた銀の髪が目立ち、黒を基調とした鎧を着込んでいる。男は腕を組み、精悍な顔立ちだが感情を表す素振りも見せず、ただ口を横一直線に結び、視線だけを動かして、横目で入口の方角を見遣る。そんな男の動作に呼応したように集会所の扉が開かれる音がした。足音は聞こえず、代わりに鎧が僅かに擦れる音が少しずつ大きく聞こえてきた。少しして、集会所中央に位置する巨大なオブジェの左側から紫髪の男が姿を現した。紫髪の男は敬礼する衛兵の横を通り抜け、肩を竦ませながら三人が居る扉の前へとやって来た。 「悪い、悪い」 紫髪の男は軽薄な表情を浮かべながら、悪びれもしない口調で言った。 「何をしていた」 その場の全員が紫髪の男へ向き、各々の感情で視線を注ぐ中、一拍の間を置いて銀髪の男が口を開いた。 「決まっているだろう? 準備だよ、準備」「昨日の時点で通達はされていた筈だが」「心の準備ってやつも必要でね」 銀髪の男は小さくため息を吐き、それきり黙った。その様子を見ていた金髪の女の口元が、小さく綻ぶ。 「待っておったぞ」 女は男達を順に見遣った。ここまで一言も発していなかった大柄の男は、その言葉で女に跪いた。銀髪の男も大柄の男に続き、会話を続けようとした紫髪の男もまた、続く言葉を呑み込んで女に跪いた。 「此度は、そなた達に働いてもらう事になる」「はっ」「思えば今に至るまで、随分と時が経ってしまった」 女は厳かに、そしてどこか芝居がかった口調で語る。 「大司教――いや、『元』大司教は、女神の名を借り、ベルティ教団を私物化し、非道の限りを尽くした。きっと女神様も、お嘆きになるであろう」女神と聞き、僅かに動いた銀髪の男を、紫髪の男は目で制した。 「そなたらグランナイツの働きもあって、あの者を追い出し、教団の浄化は進んでいる。それ自体は喜ばしい事だ」 女は一旦言葉を切り、また語り出す。 「しかし、あの者を捕えなければ、事は終わらぬ。教団員にも、教団兵にも、未だにあの者を怖れ、あるいは信奉する者が居る。あの者を捕え、今度こそその力を完全に削がねばならぬのは、そなたらも分かっているだろう」「まさに」 大柄の男が跪いたまま、厳かに返す。 「本題だが、昨晩伝えた通り、あの者の潜伏先を掴んだ。今回の話は特に信憑性が高い。ゆえに、そなた達を呼んだ」「他のグランナイツへの招集命令は、いつ掛けますか?」「案ずるな。既に、全員に声を掛けておる。ただし……」女は再び言葉を切り、銀髪の男を見る。「あの女に相対するのは、そなたらだ。他の者らは、保険の意味も兼ねて三隊に分かれ、逃げ道を塞いで貰う」「確かに、万一でも逃げられたら厄介ではありますが」「万一を無くすのが、そなたらの務めであろう? 期待している」 女は静かに微笑んだ後、徐に歩き出し、階下の衛兵に声を掛けた。 「すまぬが、そなたらは少し、席を外してもらえるか」 兵士の一人が驚き、女を見た。まさかいきなり自分に話しかけてくるとは思わなかったのだろう。肯定の声が裏返っていた。 兵士達が退出した後、女は咳払いを一つした。 「さて」「まったく、やれやれですよ」 女が話を切り出そうとするのを遮り、紫髪の男が立ち上がりながらぼやく。 「えっ。なにが?」 兵士が退出した後の女は、そこらの街娘と変わらない口調になっていた。先程見せた威厳は、どこかに遊びに行ったようだった。 「決まっているでしょう。何故、今回の任務に同行しようと思ったのです」「何?」「陛下も?」 紫髪の男の暴露話を聞いた銀髪の男と大柄の男が、同時に女を見る。 「決まっているでしょう?」 女はからからと笑う。 「上に立つ者として、そういうポーズは必要だし」「そんな危険な方法を取らなくたって、もっと別のやり方があるでしょうに」「そうだけど」 女は言葉を区切り、紫髪の男の顔を下から覗き込む。 「この間、レオンとカルシオンのお墨付き、貰ったもん」 女は目を細め、悪戯が好きな子供の様に笑う。対し、紫髪の男と銀髪の男は、同時にため息を吐く。 「それを言いたいが為に最近、訓練でしきりに、どう? と聞いてきたわけですか」「国民へ元大司教を討った事を示す方法であれば、我々が奴を討った後にでも考えましょう。陛下に万一の事があっては」「万一を無くすのが、あなたたちの務めでしょう?」 女は笑顔のまま、銀髪の男の話を遮る。紫髪の男は苦笑する。 「卑怯な手を使いますね、陛下。誰も逆らえないですから、それ」「えへへ」「とにかく、今回ばかりは危険なので、我々に任せてくださいって」「ううん」 女は先程の笑顔を引っ込め、代わりに真剣な面持ちとなった。 「これはね、わたしの為でもあるんだよ」「と、言いますと?」「あの人から受けた呪縛の糸は、自分で断たなきゃ」 気付けば女は、男達を正面から見据えていた。 「わたしは、あの人の傀儡じゃない。わたしは、あの人の様に民を苦しめるんじゃなくて、笑顔にしたい」「……」「今、ようやくその念願が叶いそうで。でもあの人が居る限り、また王室を牛耳る可能性があって。だから、あの人を放っておくことなんてできない」 女の眼には大きく、男達が映っている。 「それはきっと本来、わたし自身が為すべきなのだと思う。でも、わたし一人だけだと、あの人には勝てない」「厳しい事を言いますが、そうですね」 紫髪の男の顔からもまた、いつもの薄ら笑いは消えていた。幾度も何かと戦い、時には暗殺もしてきた男の冷徹な瞳が、無垢な女を捉えていた。銀髪の男も、大柄の男も、紫髪の男のそういった眼差しを何度も見てきたが、二人とも敢えて言及はしなかった。紫髪の男がこういった場面でこの表情をする時は大体、真面目に心配している時なのだろうと。 「うん。だからあなた達に、一緒に戦ってもらう事にしたんだ」「黒騎士団に入ったのも、そういう目的があって?」「それもあるよ。でも」 再び女は、表情を崩して微笑んだ。 「あなた達に、憧れていたんだ。十年、あなた達に育てられて、あなた達の背中と生き様を見てきて。いつか隣で一緒に、理想の為に戦いたかったんだ」「ごっこ遊びだったら、ムム討伐の時にでも付き合っていただければ」「ごっこ遊びなんかじゃないもん」「クロエは危険です。どうか、ご理解を」 今まで会話に参加していなかった大柄の男が紫髪の男に乗じ、優しく、あやすように言う。 「ノヒルリアまでそう言うの?」「陛下」 ノヒルリアと呼ばれた大柄の男は、誰が見ても明らかに動揺している。まるで親になったばかりの男親が、赤子を前に狼狽えているようだと、銀髪の男は思う。 その後も続くノヒルリアと紫髪の男、そして女のやりとりを聞きながら、銀髪の男は嘆息する。何せこの娘は、言い出したら聞かないのだ。かつてグランナイツは、横暴を極め王国を牛耳ろうとした大司教の女を追い出した。当時、齢十一だった女王は、問いかけにすら顔色を窺ってばかりで何も言えないほどに弱かった。先王とその妃であった両親はとうに死に、女王は独りだった。ただ、民の絶望に寄り添い、民を想う気持ちだけはあった。 見かねたグランナイツ達は、女王の教育係を引き受ける事にした。各々が女王に自らの知識を叩き込んだ。護身術も教えた。流石に基礎的な学問や、王族としての振舞いだけは、クロエの横暴の後も残った王城の者らに任せるしかできなかったが。意外な事に、女王には魔法の才能があり、魔法の制御も教えた。街娘の恰好をさせ、お忍びで共に市街を歩き回ったりもした。女王はグランナイツ達の教えを貪欲に吸収し、密かに民との交流を深め、性格は段々と前向きに育っていった。そこまでは良かった。 一つ、銀髪の男にとって誤算だったのは、この娘が前向きに育ち過ぎた事であった。今では物怖じなどせず、器用に女王の仮面と庶民の仮面を使い分けるようになった。自身の信念を持て、という銀髪の男の教えを忠実に守り過ぎて、自分の意見を中々に曲げなくなってしまった。グランナイツとして表向きの任務をこなせない場合に備えて、銀髪の男が密かに立ち上げた黒騎士団の話を聞いた時も、自身が団長を務めると言い出して聞かなかった。 そこにはいつも、上に立つ者としての強すぎる責任感が伴っていた。この娘が意見を曲げない時というのは決まって、自分が得をする場合ではなく、その全てが他人の為になる場合であるというのが始末に負えない。つまりはこの娘、黒騎士団で活動した時に起きた一切合切を、自分の責任にするつもりなのだろう。女王としてはあるべき姿なのかもしれないが、曲がりなりにも教育を施してきた一人である銀髪の男としては、素直には喜べなかった。 生き急いでいる。過去の自分が厭で仕様が無いのかもしれないが、そうであるにしても忙しない。今回も自分の為だとか言いながら、王国がより安定するように強い女王を演じようとしている。危険を承知で大司教を誅する為、陣頭に立つつもりでいるのだろう。女王自ら暴れ回るのは、チェス中だけにして欲しい。 気持ちは分かるが、しかし。 「そうだ、レオン」 レオンと呼ばれた銀髪の男が振り向くと、女は白い小箱を差し出していた。 「これは」「キーストーンの欠片だよ」 それを聞いたレオンの表情が険しくなる。キーストーン。それは、世界を揺るがす程の莫大な力を持ち、その力ゆえに常人であれば精神が暴走してしまう、蒼い石。 「レオンなら、使いこなせるだろうから。危なくなったら、使って」 女の言う通り、レオンはキーストーンを――正確に言えば、それに類する力を使った事がある。しかし、これを受け取ってしまうと、なし崩し的にこの女王を連れて行かねばならなくなってしまう。 小箱を受け取ろうとしたレオンの手が、止まった。 女の澄んだ瞳が、真っ直ぐに、レオンを見据えていた。
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ソース:https://forum.gransaga.jp/#/view/4/1038
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登場人物たちの心情や行動がリアルに描かれており、物語の展開が気になる要素がたくさん詰まっています。どんな展開になるのか、続きが気になります。